総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文に対する審査方式(私案)
について、ご意見をお聞かせください。
総合研究大学院大学文化科学研究科長
国際日本文化研究センター教授
鈴木貞美
2004/08/27
今日、日本における人文・社会科学系学位請求論文は、その数を増しつつあり、また、
国際的にも、ますます、その必要度を増しつつあります。しかしながら、その評価基準に
ついては、国内的に必ずしもコンセンサスを得るものとはなっておらず、種々の混乱を呈
しているのが現状であると思います。それゆえ、何がしかの評価基準が設定されるべきで
あると思い、以下に、その提案を行うものです。
また、このような標準を示すことは、学位請求論文の作成者にとっても、どこに注意を
払うべきか、が、より明確になり、論文の完成度を高めるために役立つものと思います。
なお、これは、人文・社会科学系学位請求論文に対して、それぞれの審査にあたる委員
会が参考にして、採用項目の選択や増加を行い、評点方式を採用するかどうか、や評点配
分などに独自の方式を生み出すためのひとつのモデルにすぎないことをお断りしておきま
す。
また、これは決して数多くの経験をもつとはいえない小生が、これまで携わってきた日
本国内(総研大、私立大学)および英語圏における学位審査や教授昇格審査を参考にして
作成したものあり、この試=私案に対して、経験豊かな各位のご意見を頂きたく、ここに
素案を提示し、各位のご意見によって補綴、修正を施した上で、総合研究大学院大学文化
科学研究科の専攻長会議に提案し、論議に付すつもりでおります。
方式 各審査員各自が評価表に記入し、
審査委員長(主査)がこれをまとめて、最終的な評価表をつくる。
保管とその範囲については、各専攻で定める。
なお、ご参考までに、実際の審査に用いた記入例を添付します。
要検討事項 @公開審査前に主査が集約するかどうか。
A保管とその範囲(保管しないか、主査の評価表のみ保管するか)。
情報公開の対象とするかどうか。
B同一題名論文の再審査という道をひらくかどうか。
C予備審査にも応用するかどうか。
総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(1)
請求する学位の種類; ____ 提出日; 審査会の日時;______
学位請求者;所属機関; ___________________________
氏名(学籍番号); _______________________
論文名__________________________________
__________________________________
審査委員 所属機関と職; _________________________
氏 名; ______
評 価
合格とする
☐学術上の意義に優れ、かつ、そのままで、出版に値する。
☐学術上の意義が十分認められる。
条件つき合格とする(条件を具体的に指示してください)
☐学術上の意義が十分認められるが、誤字・誤記、細部の表現の訂正を必要
とする。
☐学術上の意義が認められるが、一部、ないしは、ある要素の誤りの訂正を
条件として、合格とする。
再審査を必要とする
☐再審査を必要とする。
(欠陥を具体的に指示し、その訂正箇所について再審査する)
☐評価者が、再審査に加わることを承諾する。
不合格とする
☐
注記
審査委員各位は、審査表2の各項目に答えて、評点を記載し、判定を行ってください。
なお、審査表1に書ききれない場合は、当該論文への書き入れのほか、別紙とするか、別
紙3のコメントに記してください。また、審査表2の総合判断は、独創的なものか。先行
研究を大幅に超えるものか。類似の問題意識に立つ論考の中で、優れたものか。今後の研
究の発展性が、どの程度期待されるか、などの諸点から総合判断してください。
また別紙3にコメント(当該論文の学術上の意義など)を自由にお書きください。
審査対象論文は、評価にかかわらず、必ず返却してください(返却用の封筒とともに送付)。
評点 5 たいへん優れている
4 優れている
3 博士論文としてはふつう
2 やや欠陥が目立つ
1 不適確
総合点で22点以上を合格ないしは再審査の範囲とします。ただし、評点1の事項は、
再審査の対象のひとつとなります。再審査とは、同一題名の論文とし、指摘箇所の訂正を行うものをいいます。
総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(2)
氏名 論文名________________________________
審査委員氏名_________
評 点
1 目的(対象)と、その重要度
明確か、独創的かなど 5
4 3 2 1
____________________________________
____________________________________
2 方法の有効性
研究目的に対して有効かつ適切か。 5 4 3 2 1
研究方法の開発、ないしは発展に寄与するものか。
____________________________________
____________________________________
3 形式、表記は整っているか。 5 4 3 2 1
全体の構成(問題設定、考察、結論)、目次、引用・出典・参考文献、索引などと、
その表記。(訂正すべき箇所を当該論文に具体的に指示してください)
____________________________________
____________________________________
4 研究の目的と方法に必要な先行研究を踏まえているか。 5 4 3 2 1
(十分でない場合は、その理由を書き、領域や具体例を指示してください)
____________________________________
____________________________________
5. 推論・考察は適切か。 5 4 3 2 1
論理性、概念、学術用語の適切さなど。(不適格な箇所を指示すること)
____________________________________
____________________________________
6 専門分野の知識を十分に持っているか。 5 4 3 2 1
(不適格な箇所を指示すること)
____________________________________
____________________________________
7 文章表現。 5 4 3 2 1
明解さ、もしくは文章表現にすぐれているか。
____________________________________
____________________________________
【評点合計】 点/35点
総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(3)
氏名____
論文名___________________________________
____________________________________
評価のコメント
審査委員氏名______
______________________________________
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総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(1)
請求する学位の種類; 課程博士提出日;2004/06 審査会の日時;2004/08/27
学位請求者;所属機関; 総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本専攻
氏名(学籍番号); ××××(学籍番号:××××××)
論文名_歌道と茶道における恋歌の諸問題;その歴史的展開と社会的背景について_
___________________________________
審査委員 所属機関と職;_総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本専攻 教授
氏 名; 鈴木貞美_
【評価】
合格とする
学術上の意義に優れ、かつ、そのままで、出版に値する。
学術上の意義が十分認められる。
条件つき合格とする(条件を具体的に指示してください)
学術上の意義が十分認められるが、誤字・誤記、細部の表現の訂正を必要とする。
学術上の意義が認められるが、一部、ないしはある要素の訂正を条件として、合格とする。
再審査を必要とする
再審査を必要とする。
(欠陥を具体的に指示し、その訂正箇所について再審査する)
評価者が、再審査に加わることを承諾する。
不合格とする
注記
審査委員各位は、審査表2の各項目に答えて、評点を記載し、判定を行ってください。なお、審査表1に書ききれない場合は、別紙とするか、別紙3のコメントに記してください。また、審査表2の総合判断は、独創的なものか。先行研究を大幅に超えるものか。類似の問題意識に立つ論考の中で、優れたものか。今後の研究の発展性が、どの程度期待されるか、などの諸点から総合判断してください。
また別紙3にコメント(当該論文の学術上の意義など)を自由にお書きください。
審査論文は、評価にかかわらず、返却してください。
評点 5 たいへん優れている
4 優れている
3 博士論文としてはふつう
2 やや欠陥が目立つ
1 不適確
総合点で22点以上を合格ないしは再審査の範囲とします。ただし、評点1の事項は、再審査の対象のひとつとなります。
再審査とは、同一題名の論文とし、指摘箇所の訂正を行うものをいいます。
総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(2)
×××× 歌道と茶道における恋歌の諸問題;その歴史的展開と社会的背景について
審査委員氏名_鈴木貞美
1.目的(対象)と、その重要度
独創性と明確性 5○4 3 2 1
日本文化における恋歌を通史的に考察する一環として、類縁性が濃厚とされる歌道と希薄とされる茶道におけるそれを再考するもので、独創的かつ明確である。
2.方法の有効性
研究目的に対して有効かつ適切か。 5○4 3 2 1
研究方法の開発、ないしは発展に寄与するものか。
恋歌を文芸としてではなく、文化事象として考察する方法的立場を確立し、かつ具体物に即して計量的方法を駆使して多角的に検討する橋頭堡を築いている。
3.形式、表記は整っているか。 5○4 3 2 1
全体の構成(問題設定、考察、結論)、目次、引用・出典・参考文献、索引などと、その表記。(訂正すべき箇所を当該論文に具体的に指示してください)
ごく一部に流布本(岩波文庫)からの引用が見られる程度で、たいへんよく整っている。ただし、出版の際には索引を付してほしい。________________
4. 研究の目的と方法に必要な先行研究を踏まえているか。 5 4○ 3 2 1
(十分でない場合は、その理由を書き、領域や具体例を指示してください)
最近のものまで含めて十分と認められる。ただし、定評のある精神史的な文献をふまえる必要がある。
____________________________________
5.推論・考察は適切か。 5 4○3 2 1
論理性、概念、学術用語の適切さなど。(不適格な箇所を指示すること)
和歌観および茶道観、恋愛観の水準で論じた上で、恋歌論として展開した方が、より明確になるところが一部にみられ、また方法的限界をしっかり認識することが必要。
6. 専門分野の知識を十分に持っているか。 5 4○3 2 1
(不適格な箇所を指示すること)
歌と茶において、相当の知識をもっていると判断されるが、精神史的な面において、理解が浅い、粗雑と判断されてもしかたのない記述が見受けられる。_______
7.文章表現。 5 4 3○2 1
明解さ、もしくは文章表現にすぐれているか。
難点をあげるなら、同一の語彙、いいまわしが目立ち、やや硬いのと、細部において推論の根拠の示し方に、もう一工夫あってよかった。______________
【総合点】 30点/35点
総合研究大学院大学文化科学研究科学位請求論文審査表(3)
×××× 歌道と茶道における恋歌の諸問題;その歴史的展開と社会的背景について
審査委員氏名_鈴木貞美_
審査対象論文は、文芸論としてではなく、日本文化における事象という広い視野に立って恋歌の諸相を考察するという問題設定を行い、歌道および茶道という二分野において、それを行ったものであるが、はじめての挑戦に満ち、和歌、茶道、恋愛観の諸分野に再考を促し、新たな展望を開く可能性に満ちたものであり、その研究上の功績は大きく、課程博士論文としては、出色のものと判断する。
本論文執筆者は、これまでの恋歌研究が、せいぜいよくいっても個々の歌の解釈と鑑賞に偏ってきたこと、恋歌および恋歌論について古代から近現代におよぶ通史がいまだ書かれていないことなど、その限界を指摘した上で、恋歌についての種々の歌道書などに見られる恋歌論、「万葉集」、「百人一首」、個人の歌集の構成上の特徴について、論者の思想的立場や享受層のちがいなどを把握し、膨大な作業を重ねて、統計処理を駆使して、多くの創見と新しいデータを披瀝している。その静かな迫力は読むものを圧倒する。その上で、茶道という恋歌を拒否する領域について、掛け軸や茶道具の銘などの具体物と恋歌との関連を詳細に考察し、流派によるちがいをふまえ、ある類縁性を指摘している。これも独創的な着目といえる。これらを総じて、歌道、茶道の双方について、一般的に流布している、表面的な理解による既成観念を打破する一応の結論を出しえている。本論文は、これら恋歌に関する文化事象の検討という作業を通じて、日本文化における和歌および歌論の位置や恋愛観の変遷の研究に、新たな手がかりを提供するものになっている。
恋愛観の変遷についての通史的な考察、近現代短歌史における恋歌および恋歌論との関係などについて、本論文が極めて慎重な態度をとっている諸点は、今日の日本文化論そのものが抱える問題といってよく、その責任は執筆者に帰すべきものではない。執筆者は、それらの問題をよく把握しえており、今後の課題として具体的に提案しえている。その点でも、今後、発展の可能性を大いに期待しうる論考といってよい。
ただし、ひとつの博士論文としては、諸問題の考察という形に一応収められてはいるものの、表現上の細部の欠陥とは別に、諸問題のそれぞれに対する方法と考察に一貫性がとれていない点、様ざまな恋歌論を扱う際に、恋愛観、和歌観、あるいは茶の湯観の水準を見極めた議論になっていない点、また、恋歌の定義を前近代ないしは「旧派」の歌集の「部立て」によって行うという方法の意義と限界を、よく示しえていないことなどにうらみがのこる。そのため、歌道、茶道の精神史的な理解や、近代における恋歌に関する考察が薄いという印象を読む者に与えやすいものになってしまっている。ひとことでいえば、論文構成上の技術の習得に弱い。
その欠点を指摘した上で、以上を総合し、本論文のもつ学術研究上の意義は、課程博士論文としては十分に認められるものと判定する。
<以上記載例>
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